昔むかしのフランスの音ーフランスバロックのお話ー第5回「喋るフランス」by相川郁子

 バロックの時代(17世紀〜18世紀初頭)のフランスでは、音楽と言えば舞曲であったというお話をしましたが、この時代の音楽にもう一つ、とても大きく影響したのが彼らの言葉、フランス語です。
響きがニュアンスに富んで美しく、流れるように話されるフランス語は、今もそれを母語とする人たちの誇りであると言われます。言葉は、歌とも関連して、音楽に必ず影響を与えるもの。フランスバロックの音楽の場合もそのとおりで、フランス語と同じような、なめらかに流れるような旋律や音色の変化に富んだ楽器の使い方が良しとされました。フランスでは極端な強弱や速度の変化のようなサプライズや、これ見よがしな感情表現は好まれませんでした。抑制のきいた表現で喋るように、語るように演奏されるものが、フランスの王侯貴族にふさわしいとされたのです。そうすることで彼らがライバル視するイタリア音楽との差別化を図ったとも言えます。

 当時は演奏の仕方にもいろいろと特徴的なものがありましたが、そのなかでも聴いてわかりやすく、フランス語とのリズムとのつながりを感じさせるのが、「イネガル」と呼ばれる奏法でしょう。楽譜上に同じ長さ(音価)で書かれている2つの連続した音符を、書かれたとおりの長さではなく、片方を長く、もう片方を短くして演奏することを言います。付点のついた音符であるかのようにスウィングさせて演奏する、と考えるとわかりやすいでしょう。フランスでは特にこの演奏法が盛んに用いられたと考えられています。イネガルで演奏されるフランス音楽は流麗で耳に心地よく、フランス語と似ているように感じられると思います。

 なお、イネガルinégalとは「不均等な」という意味のフランス語の形容詞です。2月26日にコンサートをするトラヴェルソ・デュオの「イネガリテ Inégalité」という名前は、その名詞形にあたるものです。17世紀末にフランスで流行した横笛、フラウト・トラヴェルソもまた、フランス語と響きのよく似た楽器でした。音量の強弱はあまり派手につきませんが、音色の多彩さならほかの楽器に負けません。くぐもった甘い音も得意な楽器ですが、そんなところがフランス語を話す人たちの声の出し方や話し方にそっくりです。物憂い表現にも向いています。この楽器をフランス貴族たちが愛したのも、そう考えると、とても納得がいきます。

「フランスは語り、イタリアは歌う」というのは、私がブリュッセル留学時代に、学校の授業で教わった言葉です。フランスは踊り、語り、喋ります。来月26日にひねもすのたりで行われるコンサート『笛のお喋り』で、フランス的な管楽器 フラウト・トラヴェルソで演奏されるフランスの音楽がどんな響きなのか、ぜひ実際にお聴きになってみてください。
2017/02/14(Tue) 09:49:28 | 日記
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